2017年度フォリア賞・2018年下田光造賞受賞のご報告

医療法人啓仁会 豊川さくら病院 児童精神科医長
名古屋大学大学院医学系研究科 精神医学分野 客員研究員
大原 聖子

 

この度、ボンディング障害をテーマとした論文にて、日本精神神経学会2017年度フォリア賞受賞に続き日本うつ病学会2018年下田光造賞を受賞致しました事を謹んでご報告申し上げます。本賞を頂いた事は大変喜ばしく光栄に思っておりますが、賞の重みを考えると身が引き締まる思いをしております。

 

児童精神科臨床の現場において、「わが子をかわいいと思えない」と、母が児に対して愛着をもつ事が困難となる場面にしばしば遭遇します。敵意や攻撃性を持つ場面や、拒否的感情を持つ場面も稀ではありません。これらの母からわが子への情緒的絆の問題は、ボンディング障害と呼ばれています。ボンディング障害は、母の児に対する感情・態度の障害ですが、児に対する無関心や虐待といった養育上の深刻な問題を引き起こす場合があるため、予測因子の同定および早期介入が重要になります。

 

今回、評価対象となった論文は、周産期のボンディング障害、母親の抑うつ状態、および妊娠中に受けるソーシャルサポート(心理社会的支援)の関連について、前向きコホート研究を用いた検討結果についてです。今回の結果から、妊娠中のソーシャルサポートの提供者の数と満足度の双方が産後のボンディング障害と抑うつ状態に対して保護的な働きを持つ事が明らかになりました。よって、①妊娠中のソーシャルサポートのネットワークに焦点をあて、提供者の数を増加させるような早期介入、②妊娠中のサポートに対する満足度を適宜確認しながら、その質を高めるような心理社会的介入が有効である事が示唆されました。

 

研究遂行、論文執筆は私個人の力だけでは到底成し遂げる事はできません。多くの方のご指導・ご支援のおかげと厚く御礼申し上げます。豊川さくら病院の高岡院長はじめ皆様には、臨床をしながら研究を続ける事に多大なご理解とお力添えを頂きました。皆様に心より感謝申し上げます。

 

研究で得られた知見を臨床へ応用する事は、臨床医としての目標ですが、道程は遠く、今後も裾野を広げ、少しでも役立つ知見を得られるよう、研鑽を積んでまいりたいと思います。

 

 

【対象論文】
Ohara, M., et al. Relationship between maternal depression and bonding failure: A prospective cohort study of pregnant women. Psychiatry and Clinical Neurosciences, 71, 733-741, 2017.

 

Ohara, M., et al. Social support helps protect against perinatal bonding failure and depression among mothers: a prospective cohort study. Scientific Reports, 7, 9546, 2017.

 

2017年度フォリア賞授賞式(第114回日本精神神経学会学術総会にて) (写真左)理化学研究所 加藤忠史 先生、(写真中央)大原、(写真右)九州大学 神庭重信 先生

2017年度フォリア賞授賞式(第114回日本精神神経学会学術総会にて)
(写真左)理化学研究所 加藤忠史 先生、(写真中央)大原、(写真右)九州大学 神庭重信 先生

 

2018年下田光造賞授賞式 (写真左)大原、(写真右)名古屋大学 尾崎紀夫 先生

2018年下田光造賞授賞式(第15回日本うつ病学会総会にて)
(写真左)大原、(写真右)名古屋大学 尾崎紀夫 先生